秀808の平凡日誌

第四話 撃

 
 …倒れた兵士の傷口から、絶え間なく血が溢れ出す。

 致死量と一目でわかる。倒れた死体の周りには、大きな血だまりができているのだから。

 そして、その兵士を貫いたスウォームの右腕からも、血が雫のように地に落ちていく。

 血の、生臭い臭いが風にのって鼻を刺激する。

 腕に付着した血を、舌でなめとったスウォームは、何かをふっきるように、背中の漆黒の翼を広げ、咆哮した。

「ギャオォォォォォォォォォォォォン!!!」

 その咆哮の後、兵士達が悲鳴をあげて逃げ出す。

「に、逃げろぉぉぉぉぉ!!!!」

「殺されるぅぅぅ!!!」

 その逃げる様子を見ながら、スウォームは叫んだ。

「…クックック…サァ!逃ゲ惑エ人間!我血肉トナルノダ!骨ノ一欠ケラモ残サz……」

 だがその叫びは、スウォームの周りに巻き起こった爆音と爆風にかき消された。

 それは…ファントムの放った『メテオシャワー』だ!

 彼は腰の持ち物袋から『ドラゴンの心臓』をとりだすと、一気に口に押し込み、飲み込んだ。

 そしてそのまま『メテオシャワー』を連発する!

 爆音が止むことなく鳴り響き、炎が絶えることなく燃え上がる。

 そして『ドラゴンの心臓』の効果が切れたとき、爆音は収まった。

「…やったか…?」

 『メテオシャワー』が連続して直撃した場所は、赤くドロドロに溶けている。

 あまりの高温に、地面が溶解したのだろう。溶岩のようになっている。

 これなら、流石に生きてはいないだろう。

「…ふぅ…」

 ファントムが息をつき、その場に座り込む。その場には、自分以外誰もいなかった。

 終わったと思い、立ち上がろうとした時、溶岩の池の水面が揺らいだ。

「?」

 そして、溶岩の飛沫を上げて、黒い翼を広げたスウォームが飛び上がった。

「な…!」

 そのまま、近くの地面に着地するスウォーム。

 足に触れた地面から蒸気と、肉を焼くようなジュウウという音が聞こえた。

 今のスウォームの体は、かなりの高温であることはあきらかだった。

 立ち上がって逃げようとしても、腕に力が入らない。恐怖心が、体の筋肉を硬直させている。

 そして、ファントムの目の前までスウォームが歩み寄る。

「…効イタゾ、ナカナカヤルジャナイカ…ダガ、ココデオ別レダ」

 スウォームが、鋭い爪を生やした右腕を振り下ろす!

「(…く、ここまでか…?)」

 だが、聞こえてきたのは、自分の肉が裂けるような生々しい音ではなく、何か、硬い物にぶつかった音だった。


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